起案について written by 76期司法修習生 佐藤 和樹
1 はじめに
今回は、修習生にとって成績評価の対象となる「起案」について、ご紹介したいと思います。
そもそも、起案とは、民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護の5科目につき、実際の事件記録の一部を修正した修習生向けの事件記録をもとに、科目ごとに問題を回答するものです。
各科目により、問われる問題形式が異なり、2回試験にも同様の問題形式で問われますので、修習では非常に重要です。
そこで、以下では、起案の概要と各科目の特性について、ご紹介したいと思います。
2 起案
1 総論
(1)起案の時期
まず、起案の時期についてです。
起案は、導入修習、分野別実務修習、集合修習の各期間にそれぞれ行われます。その上で、特に重要なのは、分野別実務修習と集合修習中の期間に行われる起案です。
当該期間に行われる起案は、修習の成績評価の対象となります。
他方で、導入修習中の起案は、確かに重要ではありますが、成績評価の対象外であること、まずは起案に慣れるという意味合いが強いこと等から、上記期間中に行われる起案とは重要度は比較的下がります。
分野別実務修習中の起案は、各分野別実務修習のはじめ(概ね分野別実務修習開始の2~3日後に行われる傾向にあります)に行われます。ですので、分野別実務修習開始前の段階で、起案に向けた勉強を進めておく必要があります。
(2)起案の形式面
76期では、導入修習中の即日起案は、PC起案(Word作成)でしたが、分野別実務修習中及び集合修習中の起案は、手書きでの起案でした(2回試験においても、手書き起案となります)。
手書き起案の際、答案用紙は配布され、配布された専用の答案用紙にボールペンにて起案をすることになります。司法試験の場合と異なり、起案では1行空けて記載することに特徴があります(司法試験の場合は、1行空けずに行間はすべて詰めて記載します)。
また、休憩時間は一応1時間設けられていますが、全員一斉に休憩を取るのではなく、各自が自由に休憩をすることができ、休憩時間中の起案も認められているという点も特徴的です。
2 各科目の特性
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民事裁判
民事裁判の起案は、訴訟や答弁書、各種準備書面等を踏まえたうえで、民事裁判官の立場から、主張を整理したうえで、争点に対する判断を起案することになります。
起案の内容は、大まかに①要件事実に沿った主張整理と②当該整理を踏まえた事実認定を行います。
①の主張整理は、要件事実を理解していることが前提となります。そのうえで、訴訟物を明示し、請求原因(認否含む)を摘示します。
②の事実認定は、証拠上、動かし難い事実をもとに、当該事実から要証事実を推認することができるかを検討します。その際には、判断の枠組み(司法研修所の教材である白表示のうち、「事例で考える民事事実認定」を参考にします。詳細は、別コラムにてご紹介します。)を明記すること重要です。
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刑事裁判
刑事裁判の起案は、判決起案になり、事例検討記録から被告人は有罪か無罪かを判断することになります。
当該判断の際には、証拠からいかなる事実が推認され、当該推認から要証事実を推認する過程を丁寧に論じる必要があります。
刑事裁判起案は他の科目とは異なり、形式的な答案の枠組みがありませんので、実際の判決書きを参考にしつつ、答案のイメージを持つとよいでしょう。
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検察
検察の起案は、事例検討記録から、当該被疑者を起訴するか(又は不起訴とするか)否かを判断することになります。検察起案の場合は、答案の枠組みが決まっており、当該枠組みに沿って起案をすることが重要です(具体的な枠組みについては、司法研修所の教材である「終局処分起案の考え方」を参考にすることが肝要です。詳細は、別コラムにてご紹介します)。
なお、検察の起案で、不起訴にする場合はほぼないと考えて頂いてよいでしょう。また、起訴状における公訴事実の起案もありますが、公訴事実の案が記載されている「検察講義案」の持ち込みが可能ですので、公訴事実を丸暗記する必要性は乏しいと言えます。
(4)民事弁護
民事弁護の起案は、準備書面起案等がメインになります。その際は、一方当事者代理人としての立場から起案をすることなりますので、依頼者の言い分を前提に、起案をすることが重要です。
民事裁判起案とは異なり、あくまでも一方当事者の代理人ですので、相手方の言い分を前提とする必要はなく、事実認定をする際にも、客観証拠の他に依頼者の言い分をそのまま前提事実として起案をすることが大切です。
(5)刑事弁護
刑事弁護の起案は、事例検討記録をもとに、被告人の弁護人として最終弁論等の起案を行います。
その際、有罪前提の執行猶予付き判決を求める旨の弁論をすることも考えられますが、あくまで起案では無罪起案をすることが重要です。
3 最後に
このように、各科目の起案には、それぞれがポイントとなることがあり、当該ポイントをいかに落とさず、内容を充実させるかが大切です。
本記事にて、起案のイメージをもって頂ければと思います。
また、起案の勉強としては、司法研修所から配布される白表紙教材を活用することが大切ですので、別コラムもぜひ参照してください。